東京電力福島第一原発事故下の避難指示区域には今でも900頭の牛が生きている!

被爆状況に置かれている、900頭ほどの牛が生きることを否定され、また同時に農業者の飼育行動とそれを支援する市民グループの活動が認められない地域社会が日本の中に存在している。人類の歴史の中でもかってない異常な空間をつくりだしただけでなく、まさに人間が対処すべき適切な思考と行動を放棄した結果である。
この事態は、日本人における「人間と動物との関係」についての社会的な価値観、すなわち「動物観」の中で放射能に汚染された家畜の生存価値の是非が問われている。
福島第一原子力発電所の放射能汚染事故によって、政府はまずは人間の生命と被爆からの健康管理のために「避難指示区域」を設定し、強制的に区域外へ移動させた。しかしながら、動物の生命保護と被爆からの救助は考慮されず、避難指示区域内に放置された。しかも、この人間向けの避難指示区域の線引きによる政府の諸規制がその後の家畜の生存を脅かす最大の障害となっている。

東京電力福島第一原発事故下の避難指示区域には今でも900頭の牛が生きている!
放射能線量の高低に係りなく原発から20km離れた距離で設定された警戒区域内へは、家畜の生命と健康を維持するために飼育しようとする農業者や支援市民などの立ち入りが2011年4月22日から禁止された。さらに5月12日には原子力災害対策本部長から警戒区域内の家畜の安楽死処分が指示された。それ以来、獣医師等の行政職員が動員され、2012年12月末までに1395頭が殺処分された。一方で、同じ避難指示区域である計画的避難区域では高線量の場所が多いにもかかわらず住民の立ち入り禁止措置はなく、家畜の移動もなされた。
このような政府の一貫性のない強行的政策にもかかわらず、2013年1月現在でも20km圏内には、牛の安楽死を拒否し、飼育行動を継続している家畜所有者の農業者と飼育作業の手助け、エサ供給、資金面などを支援する市民グループが存在する。

東京電力福島第一原発事故下の避難指示区域には今でも900頭の牛が生きている!

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飼育者は共通して「自分の牛を安楽死だけはさせたくない」理由で飼育しており、 放射能被曝牛であるからもはや牛肉生産・出荷の目的はもっていない。 しかし、畜産物でなくなっている牛の生存価値と新たな社会的役割・機能は何かを自問しながら飼育しているのである。通常の畜産業における「食べてしまう家畜を育てる人」から「食べられない家畜を育てる人」という人間と家畜の関係の変化をどう考えていくかの難題が発生しているのである。

東京電力福島第一原発事故下の避難指示区域には今でも900頭の牛が生きている!

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食肉用としての牛飼育から耕作放棄地の除草機能に活路を見出し、地域での「公益」としての評価を求める努力をつづける農業者・市民の活動が続いている。また、農林水産省および研究者グループ・日本獣医師会による「実験動物」化としての「公益」事業がすすめられ、安楽死拒否の農業者・市民活動の内部に混乱を与えつつある。
本来家畜は人間の食料として飼育され、最終的には屠畜され食べられてしまうことから、「物」(農畜産物)として扱われてきた。しかしながら、健康な家畜を育てることが食品の安全を実現するという消費者の認識とともに、動物福祉の運動が盛んな畜産先進国では20世紀末から家畜・動物観の大転換が進みつつある。すなわち、EUや世界動物保健機関OIE(旧称;国際獣疫事務局)は、家畜を「単なる農産物ではなく、感受性のある生命存在」として認識し、それ故その飼育過程においては家畜の生理的行動要求を満たしてストレスの少ない生活ができるようにアニマルウェルフェア飼育基準を科学的に開発し、普及しつつある。
このように世界的に家畜と人間の関係において価値観の転換がすすみ、いわば「畜産革命」が起こっている時代のなかで、福島原発事故による放射能被曝家畜の人道的な保護・飼育への検討課題が起きているのである。

以上のような福島県の被曝牛の現状を2013年3月には「ヒトと動物の関係学会」、6月には「共生社会システム学会」のシンポジュームで報告しましたが、このレポートは後者の発表レジメの部分要約です。その報告では次のような構成内容で行いました。後日、論文として公表する予定です。

1.東京電力第一原子力発電所事故による避難指示区域の設定と変更

2.避難指示区域の家畜の移動対策と実態

3.警戒区域における牛の飼育実態―安楽死の実行と安楽死拒否飼育者の現状

4.警戒区域における牛の「公益」をめぐる新たな問題の発生

5.警戒区域解除および避難指示区域の変更後における牛の人道的な保護の道

 

Written by admin on 8月 4th, 2013